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嶋田の戯言

嶋田が思いついたことをテキトーに綴ります

斜陽のメーカー

 先日、歴史的な米朝首脳会談が行われ、合意文書に署名が行われたわけですが、私の場合、政治ショーには興味なく、注目したのはトランプ大統領の手元。署名に使っていたペンですね。A.T.クロスのセンチュリーⅡ ブラックラッカー セレクチップローラーボール・・で、ほぼ間違いないでしょう。そして芯はゲルローラーでもボールペンでもなく、ポーラス(多孔質芯を使ったサインペンのような物)の青を使っていたようです。字幅までは分からないですが、M(中字)か、本国ならB(太字)があるのかもしれません。まあ、アメリカの大統領ですからアメリカのメーカーを使うのは当然として、センチュリーⅡとは意外。大富豪なんだからもっとお高い物を使っていると思ったら・・。でも良い品であることは間違いないですし、高級感もありつつ実用的ですから良い選択なのでしょう。オバマ大統領もクロスのローラーボールを使っていたようです。でも、ニクソン大統領、レーガン大統領が使っていたのはシェーファーの万年筆。かつては調印には万年筆が当たり前で、アメリカの万年筆といえばパーカーかシェーファー(パーカーは英国に移転)。シェーファーを使っていた大統領も多かったようですが・・・やっぱクロスだったか。

 シェーファーは私が一番好きな筆記具ブランド。特に菱形のインレイドニブを装着したレガシーシリーズ、タルガ、VLRが大好き。かつては世界の万年筆界をリードするメーカーの一つだったのが、今では見る影も無し。百貨店でも老舗文具店(関東では伊東屋、丸善)でも、ボールペンを申し訳程度に扱っているだけ。丸善ではかろうじて万年筆を見ることもありますが、もはやかつての栄光はどこにも感じられず。行きつけの「万年筆好きが集まる店」でも、新品の在庫はありません。アメ横ですら、古いタルガなどが見つかることはあっても、現行品を見ることはほとんど無いです。本当に今では人気がないです。かつては日本でもよく売れていたのに。

 
     上からレガシーヘリテージ、タルガ、プレリュードSC

 どうしてここまで凋落してしまったのか。人気商品のタルガが終売になったのも一因でしょうが、それ以前から人気は落ちていた。あるいは安いノンナンセンスがバカ売れしたため、シェーファーは安物メーカーというイメージが付いてしまったのかもしれません。いや、それ以前にノンナンセンスの軸に高級なコノソアールの首軸を付けることが出来るとか(逆にコノソアールの軸にノンナンセンスの首軸を付けることも出来るらしい)、アホなことをしていたのも敗因か? コノソアール自体、ノンナンセンスを少し高級にした感じで、高級品なのにそんなに高級には見えないという代物ですが、少なくとも安物と軸を交換できるなんて、あり得ない仕様でしょう。そんなことをやってたらダメですね。また、日本で売れていた頃は、セーラー万年筆が代理店となり、部品を在庫していたことから修理対応が早く、それも人気の一因だったようですが、今は修理となれば本国送りで時間が掛かります。

 それ以前にも何度か身売りしたようですが、1997年にはフランスのBICに買収され、傘下に入ります。その頃もプロモーションがぶれまくっていましたが、それでもBICの高級筆記具部門として居場所はありましたが、2014年、何と、同じアメリカの同業者であるA.T.クロスに売却されてしまいます。これはまずいと思いましたね。商品がもろに被るわけですから、商品の整理が進むのではないかと予感しました。そしてそれは現実の物となっています。そしてさらに・・

 家にあるシェーファーのカリグラフィーキットの箱には、W.A.Sheafferではなく2015 A.T.Cross Companyと書かれています。子会社ではあってもシェーファー社が販売していればシェーファーと書かれるのが普通では? ということは、シェーファーはクロスの子会社ではなく、クロスの一ブランドになっているということか? クロスはシェーファーよりも半世紀以上長い歴史を持つ、アメリカ最古の筆記具メーカーですが、シェーファーはレバーフィラー、スノーケルフィラー、タッチダウンフィラーなど、画期的な吸入方式を開発するなど、万年筆界をリードしてきました。一方クロスはボールペンやローラーボールが有名で、万年筆は良い物ではあっても今ひとつ盛り上がらない。何がしたいのかは分かりませんが、少なくともブランドのてこ入れが行われるのは間違いないでしょう。

 さて、ここらでシェーファーの良い点と悪い点を、私なりにまとめてみましょうか。

シェーファーの良い点

・インレイドニブは独特の造形美があり、がっちりと首軸に固定されているため安定感がある。書き味も良好。オープンニブのスチールペンも、書き味は割と良い。
・頑丈で壊れにくい。
・字幅は国産よりも少し太い程度で外国製としては細め。7mm罫のノートで日本語を筆記するのにも十分適応する。
・主に中国製だが、品質は割と良く、ばらつきは少ない方(但し付属のコンバーターには外れがある)。価格も外国製としては安め。
・カートリッジインクの装着が簡単(但しこれは接合部の欠点を逆利用している)。胴軸を外し、胴軸内に正しい向きでカートリッジを入れ、胴軸を取り付ければ装着完了。パーカーやプラチナのカートリッジは、接合部が固くてなかなか刺さらないことがあるが、シェーファーはすごく楽である。

シェーファーの悪い点

・コンバーターやカートリッジが細いパイプのみで接合されているという構造的な難点がある。胴軸内部に脱落防止の段差があり、脱落することはないが、特にコンバーターは使っているうちに接合が緩くなり、インク漏れが起こることがある。また、吸入の際に首軸が脱落するという可能性もある。カートリッジは材質自体に柔軟性があるので、途中で抜いたりしない限り問題はないが・・。
・コンバーターの樹脂が色付きであるため、インクの残量が確認しにくい。
・デザインは悪くないが最近は特にカラーバリエーションが乏しい。黒、金、銀の組み合わせばかりで面白味はない。
・ジェットブラックはフロー過剰で滲みやすく乾きにくい、ブルーブラックはフローが渋い、ブルーは普通っぽい。インクの基本三色がこれだけ違うメーカーも珍しい。
・ボールペンは書き始めが掠れやすい(特に細字、冬期)。ただし感触は個人的には好み。

 中でもコンバーターやカートリッジの接合部に構造的な欠点があるのは、シェーファーを勧めづらくしている一因です。カートリッジなら問題ないにしても、そのカートリッジインクも黒(ジェットブラック)は滲むし乾きにくいので非常に使いづらい。一方ブルーブラックは同じメーカーの物なのに、ペンによってはフローが渋く、書き味が落ちてしまう。フロー良く乾きも良好なのはブルーのみ。なのでコンバーターで他メーカーのインクを吸入して使うのがお良いのですが、肝心なコンバーターも接合部に難点があるので、やはり勧めにくい。特にシェーファー100やインテンシティは、首軸の末端から伸びているパイプをコンバーターに突っ込むだけでガイドも何もないため、外れそうで怖い。私は分かっていますからコンバーターはなるべく抜かない、接合部を回さないことにしていますが、やはり仕様的には大きなマイナスでしょう。抜本的に改良するとなると、改良前後のコンバーターとインクを当面は平行して販売することになり、ただでさえ需要が落ちているのにこれは大きな負担になります。なのでジェットブラックやブルーブラックのインクを改良して、カートリッジ主体で使えるようにする方が得策だとは思いますけどね。

 まあ、いずれにせよ、かつては軸やニブのみならず、ペンポイント用のイリジウム合金まで自社製造していた、世界的にも希有なメーカーだったのが、自社工場を閉鎖してしまった。その後VLR(すでに生産中止)はイタリアで、レガシーヘリテージはチェコで作られたということですが、他は中国製。悪い物ではないですよ。でも、イメージは依然としてあまり良くない。少なくとも日本ではね。当分上がり目はないかな?

 イタリアのオマスが廃業し、デルタも廃業し、シェーファーも完全にクロスブランドに吸収される・・なんてことにならなければ良いのですが・・。

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コメント

1. レガシー

レガシーヘリテージは現行品ではありますが、店頭で販売しているお店はほとんど見かけません。
では売れないのかというと・・・
レガシー、レガシー2、レガシーヘリテージが新宿にある某万年筆屋に中古で入荷すると、
大体その日のうちに売れてしまいます。
今は無きタッチダウン吸入式のレガシー、レガシー2ならまだしも、
カートリッジ/コンバーター両用式に変わったレガシーヘリテージも即日売れる場合が多いです。
つまりはそれなりに需要はあるって事?

細身のタルガやスタイリッシュなVLRも良いですが、
私が一番好きなのは、武骨でいかにもシェーファーらしいレガシーシリーズ。
他は全部廃止されてもこれだけはシェーファーブランドとして残して欲しい品です。

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嶋田友馬
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