ネタバレを含みますのでご注意ください。
【推しの子】が最終回を迎えた。
全体の感想としては、あの漫画は愛久愛海(あくあまりん、以下アクア)が主人公であったが、瑠美衣(るびい、以下ルビー)の物語だったのだろう。そしてルビーはアクアの死を乗り越え、アイドルとして、この苦しいこと、嫌なことだらけで真っ暗なクソ世界に明かりを灯す。それがアイドル・・ということを示していた。そしてそれは、アイドルに限らず、何か夢中になれるものを得られれば、人生捨てたものでもないんだよというメッセージでもあったと思うのだ。
作中にもあるが、漫画編集者の大事な仕事は売れる漫画を描かせることと、「売れた漫画を終わらせないこと」。この漫画は人気があり、アニメ放映により拍車がかかったが、2020年4月スタート、2024年11月完結。全166話という手ごろな長さ、丁度良い長さだと思う。売れた漫画を終わらせないためにダラダラとした展開に陥ることもあるわけで、そうなるくらいならあっさり終わってくれた方がすっきりしてよい。そもそもこの漫画は連載開始当初から終盤の内容を暗示するページがあったりしたわけで、行き当たりばったりではなく開始当初から終わりまでの青写真がほぼ出来上がっていたのだろう。
だが、やはり不満はある。そもそもアクアを死なせない展開にはならなかったのか?
途中で黒幕の神木輝(カミキヒカル)がアイの真意を知り、改心したかのような描写があったが、それが本当であれば、別にアクアが死ぬことはなかった。だが、そうではなかった。
復讐の相手・神木輝はアイを超えるかもしれない存在を悉く殺し(誰かが殺すように仕向け)、今また実の娘であるルビーをも手に掛けようとしている。相手はいわゆるサイコパスであるため、ルビーを守るためには神木輝を拘束するかご退場願う(この世からね)ってことになるのですかね。だとしてもアクアが神木を殺してしまえばルビーは殺人者の妹という汚名を被ることとなり、もはやアイドル活動は終了。そうならないために採った策は「自らの腹部を刺したうえで神木ともみ合い海に転落」。警察に「神木が自らの罪を暴く脚本を書いたアクアを刺し、もみ合っているうちに二人とも転落」と推定させるよう仕向けた。つまりアクアは被害者ということを演出した。結局そのためには、アクアも死ななければならない・・という筋書き。そしてルビー、ミヤコさん、そして大好きな重曹に対しても、何らメッセージを残さなかった。その計略が一切ばれないように。
いやいや、その場合はルビーの父親が殺人者ということになるだろうということになるが、神木輝は映画15年の嘘で断罪した相手。アイもアクアも被害者であり、ルビーへの同情の方が強くなる? 少なくともアクアが殺人者になるよりははるかにましという事だろう。
では、そうしたうえでアクアだけ奇跡的に助かるという筋書きは無いのか? 私的にはそれこそあり得ない。何故ならアクアは被害者を装っているが殺人者である。何食わぬ顔で被害者面して戻ってきて、ルビーを見守り、重曹(有馬かな)とお付き合いして・・なんてあり得ない。それならば被害者を装い死ぬ方がましか。ただ、重曹は不憫すぎる。フィクションの世界にそこまで求めなくても・・と言われるかもしれないが、この漫画は芸能界の闇や、原作者とドラマや舞台の制作者との確執など、リアルな部分を描いており、問題提起もしてきたわけで、そんな中殺人犯がちゃっかり幸せになっている的なものを描くのは、個人的には許されないと思うのだ。
それと、私としてはそんなに不満は無いのだが、それでも少々もやもやする点はある。例えばツクヨミは一体何だったのか。海の上に立っているのだから神かそれに近い存在だとは思うのだが、この子が存在していた意味が今一つ分からない。神木が児童虐待を受け、アイに見捨てられた(真実は神木を魑魅魍魎が跋扈する芸能界から遠ざけた)とはいえ、神木があそこまでモンスターになっていった過程もしっくりこない。いわゆる伏線回収がしっかりなされていたとは言い難いのだ。もっともいくつか残っている謎は、単行本の特別版に収録される追加ページや、今後スピンオフ作品を書くなどして明かされていくのかもしれない。
個人的に良いと思ったシーンは、重曹がアクアの遺体にビンタした(この不謹慎な行動には一応伏線がある)際にミヤコさんが重曹を思いっきりひっぱたいたことと、その時の表情。「息子の遺体に何てことするの!」と言っているようで、アクアとの関係は対等な大人同士のようにも見えたが、ミヤコさんはしっかり母親だったんだね。でもひっぱたいた後の重曹の取り乱しようを見て、早いうちから重曹のアクアに対する思いを知っていたミヤコさんは涙する。
それからMEMちょもアクアの死にショックを受け、Youtubeチャンネルも一時休止・・となっていたところ、重曹が乗り込んできて無理やり引っ張り出したところもね、ほんのちょっとのシーンだが、これも良かった。その重曹は撮影中に涙が止まらなくなったりしながらも、女優として歩み始めている。そしてMEMちょ(27?)はB小町のメンバーを続け、重曹が抜けた後2人の新メンバーが加入、ドーム公演を実現する。あと、万年ノミネート止まりだった五反田監督は、ついに日本アカデミー最優秀賞を獲得した。やったね。
以前にも書いたが私はミヤえもん(ミヤコさん)、MEMちょ推し。フィクションの世界に「いい人」であることを求めるのもなんだが、私はやっぱそこは外せない。ミヤえもん黒幕説とかMEMちょ黒幕説なる怪情報もネットには転がっていたが、聖人・ミヤコ、推しの子の良心・MEMが崩れ去らなくてよかったわ。
で、以下かわいそうな人たち。
姫川大輝
父は売れない俳優の上原清十郎、母は朝ドラ女優の姫川愛梨。なのだが、実の父はアクア、ルビーと同じ神木輝。で、子供の頃にそれがバレて父が母を殺害したうえ自害(要するに心中)。施設に引き取られ、やがて劇団ララライの金田一に拾われ役者となる。東京ブレイドでアクアと共演し、アクアが異母弟であることを知る。で、アクアの復讐のための映画で出生の秘密やら何やらを暴露された挙句、実父が弟を刺し、二人とも海に転落して死亡・・。この先メンタルを保てるのかな?
片寄ゆら
25歳の女優で、かなりの売れっ子らしい。一話のみ登場し、即退場。趣味の登山の最中足を滑らせて滑落・・、だがそこに神木が現れ「生きてますか?」の問いかけに対し、消えるような声で「ひとごろし」と答えて絶命。それ以来、この人何のためにこんな登場の仕方で・・と、ずっと謎だったのだが、どうやら突き落としたのはニノ(新野冬子)で、神木がそそのかしたもの。結局神木がやばい奴だということを示すために殺されたという、あまりにも不憫なキャラ。
重曹ちゃん
何てったってね、色々ありながらもようやくヒロインの座を掴んだ。しかも一時は負けヒロイン感満載であったが、二回もタイトル回収させ、終盤になってヒロイン確定・・って思ったらその相手が死亡。いやこれ、原作者、何となくアクア♡重曹のハッピーエンドすら匂わせておいてどん底に叩き落すって、本当にこのキャラ可愛がってたのか?葬儀で取り乱す姿はかわいそうすぎて読んでる方もつらくなったわ。
そしてもちろんルビー
前世では退形成性星細胞腫に冒され、落胆した両親に見放され、同世代のアイドル・アイと、研修医だったゴローだけが救いだったが、闘病むなしく12歳で死亡。4年後、アイの娘として転生したが、まだ幼稚園児の頃アイが刺殺される。それでもアイみたいなアイドルになるとB小町を再結成し、売れ始めるが、そんな折ゴローの白骨死体を発見。その後も色々あるが、アクアがゴローの転生であることを知り、光を取り戻すも、その光を失うことになる。それでも悲しみを乗り越えてアイをも超えるアイドルになる。それへの布石であることは分かっていても、冷静に考えれば相当ひどい仕打ちを受けているよな。
とりあえずひとまず以上です。赤坂先生、横槍先生、お疲れさまでした。